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XPS超入門(2)〜定量分析とバックグラウンド〜

今回はXPSの定量分析の際に最も重要なポイントとなるバックグラウンドについて考えててみました。バックグラウンドのとり方によっては同じデータでも分析者によって定量値が大きく異なってしまう可能性があります。しかし、ある形状のバックグラウンドを採用することで、分析者間の定量値の差もほとんど無くなり、しかもこれはバックグラウンドの成り立ちを考慮したものであるため、より正確な定量値が得られることにもなるという優れもののバックグラウンドについて解説します。

定量分析

グラフXPSのようにスペクトル(波形)を採取する測定方法での定量分析は、スペクトル中に現れたピークの強度を基に計算を行いますが、これはその元素の濃度 ∝ その元素から生じる光電子の数 = ピーク強度という関係があることを利用しています。(∝:比例)
ただし一口にピーク強度と言っても大きく分けて3つの考え方があります。
一つはピークの面積をピーク強度とするもの、もう一つはピークの高さをピーク強度とするもの、そしてもう一つはスペクトルをいったん微分し、微分後のピークの高さをピーク強度とするもの(図1)です。
もしピーク形状がどの元素でもすべて同じ、つまり形や幅は同じで高さだけが濃度によって異なるのでしたら上記の3つのどの方法を使っても元素間の相対強度は同じになりますので問題ありません。しかし、XPSでは元素ごとにピーク形状が異なるだけでなく、同じ元素でも単体と化合物あるいは異なる化合物間でピーク形状が大きく変わってきますので、前述の3つの方法ではまったく異なる結果になってしまいます。具体的には、たとえば高さが同じで幅だけが異なるピークの場合、面積では幅広ピークの方が強度が大きくなりますが、高さでは同じ、微分ピークでは逆に幅広ピークの方が小さくなってしまいます。

バックグラウンド

グラフ一瞬、これで定量分析の問題はすべて片付いた感じがするのですが、実はここで次の問題が生じてきます。それは「ピーク面積とは何か?」ということです。
通常、XPSで得られるピークは図2にように必ず何らかのバックグラウンドに乗っていて、ピーク全体が上方向にシフトしています。バックグラウンドで上げ底になっている分は、定量したい元素以外の元素から発生した光電子も含んでいますので、定量計算を行う際のピーク面積に含めないのが基本と考えられています。
このため、図3のようにピークの裾の端と端とを直線で結んだものをバックグラウンドと考えて、このバックグラウンドとスペクトルとで囲まれた領域をピーク面積とすれば万事解決、、、という訳には残念ながら行かないのです。

バックグラウンドを引くときの右端を始点、左端を終点として、始点を固定して終点だけを変えてみた場合、図4のように確かにこのようなピークでは面積に大きな変化はありませんので、つまり誰がデータ処理を行っても定量結果に大きな違いは出ないということになります。
ところが、XPSのピークは図2のような単純な(水平な)バックグラウンドの上に乗っているのではなく、実際には、程度の違いはありますが、ピークの右と左とで必ずバックグラウンドの高さが異なる図5のようなピーク形状になっているため、かなりややこしいです。

たとえばバックグラウンドを引くときの始点(右端)を固定して、終点(左端)だけを変えてみた場合、図6のようにピークの面積に大きな違いが生じてしまいます。終点を決める場合、このような形状のスペクトルでは目安となるものが何もありませんので、分析を行う人によって終点の位置がまちまちになってしまい、つまりピーク面積を一律に決められず、結果として定量結果が人により大きく異なることになります。

この問題を解決してくれるのがShirley(シャーリー)型のバックグラウンドです。これは「バックグラウンドの上昇は、ピークの面積強度に比例する」という仮定に基づいて、バックグラウンドを決定する方法です。ここでShirley型バックグラウンドの詳細に立ち入るのは「超入門」を超えてしまいますので避けますが、「XPS分析の豆知識」にまとめた小文「XPSスペクトルのバックグラウンド活用法」が少しだけ参考になると思います。
前述の仮定に基づいてバックグラウンドを引くと、図7のような曲線状になり、さらに終点の位置のとり方によるピーク面積の変動がほとんど起こらなくなります。つまり分析者によらず定量結果がほぼ一定になります。
このため、XPSでは、Shirley型のバックグラウンドを引くことで決まるピーク面積を基に定量分析を行うというのが最も一般的な方法となっています。

まとめ

定量の際のバックグラウンドの決め方は、定量結果に大きな影響を及ぼします。定量結果は、当然ですが、分析者によらず一定であることが求められます。上記のように、XPSのピーク形状は決して単純ではありませんので、Shirley型のバックグラウンドを用いることで、より真値に近い、そして誰がデータ解析を行っても定量結果に大きな違いが出ないような定量値が得られることになります。

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